古事記にみる弟橘媛を、古東海道 走水に訪ねる【歴旅コラム】
『古事記』『日本書紀』にみられる古東海道
日本の最も古い歴史書には和銅5年(712)に編纂された『古事記』と、その8年後の養老4年(720)に編纂された『日本書紀』があります。前者は日本最古の歴史書であるといわれ、日本神話を伝える神典として、日本の宗教・精神文化に多大な影響を与えており、『古事記』に現れる神々は、現在では多くの神社で祭神として祀られています。『古事記』の内容が文学的情緒的なものが多いのに比べ、『日本書紀』は、そういった記述をできる限り排除した歴史書であり、日本に伝存する最古の正史となっています。
古代における古東海道は「相模国」から「上総国」を経て「下総国」へと至る経路と考えられ、この径路では「相模国」から「上総国」へは図1のように海路が設定されています。この背景には古墳時代から東京湾を挟んだ両岸が海路によって密接につながっていたことを示唆しています。
古代における古東海道は「相模国」から「上総国」を経て「下総国」へと至る経路と考えられ、この径路では「相模国」から「上総国」へは図1のように海路が設定されています。この背景には古墳時代から東京湾を挟んだ両岸が海路によって密接につながっていたことを示唆しています。
三浦半島内の駅路は「鎌倉郡」の郡衙(ぐんが)(郡の役所)から逗子市を通り、葉山町の森戸海岸から内陸部に入って衣笠を通って大津の海岸に至るルートです。
『古事記』では、ヤマトタケルが渡海した海を「走水」とし、『日本書紀」ではヤマトタケルの妃である弟橘媛(おとたちばなひめ)伝説にちなんで、弟橘媛の入水後に船が水の上を馳るように進んだことから「馳(は)しり水(みず)」と名付けた(諸説あり)と言われています。
ヤマトタケルの東征伝承と弟橘媛伝説
ヤマトタケルの東征伝承と弟橘媛伝説は、古事記中つ巻の景行天皇「倭建命の東国征討」、日本書紀巻7の「日本武尊の東征と弟橘媛の入水」に記されています。いずれも東征途中に相模に至ったヤマトタケルが、海が荒れたために上総に渡海できなかったところ、弟橘媛が入水してそれを鎮め、ヤマトタケルは無事上総に渡れたという内容です。
弟橘媛は荒れ狂う海に身を投じようとするその時に詠んだ歌が「さねさし 相模の小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて 問ひし君はも」(相模の国の野原で敵に火をかけられ焼け死にそうになった時、火の中で大丈夫かと声をかけてくださいましたねという内容)です。7日後に媛の櫛が流れ着き、村人は海岸に橘神社を建てて媛を祀りました。橘神社は、明治18年(1885)に御所ケ崎が軍用地になったために、ヤマトタケルを祀る走水神社の境内に移され、明治42年(1909)に走水神社に合祀されました。また、夫の国家的任務を遂行するために、身をささげるという献身的行為を称え、明治天皇の第6皇女常宮昌子内親王の染筆による、弟橘媛命の歌を刻んだ歌碑の除幕式が、東郷平八郎、乃木希典など七名士により建碑され、除幕式が明治43年(1910)6月5日に挙行されました。
弟橘媛は荒れ狂う海に身を投じようとするその時に詠んだ歌が「さねさし 相模の小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて 問ひし君はも」(相模の国の野原で敵に火をかけられ焼け死にそうになった時、火の中で大丈夫かと声をかけてくださいましたねという内容)です。7日後に媛の櫛が流れ着き、村人は海岸に橘神社を建てて媛を祀りました。橘神社は、明治18年(1885)に御所ケ崎が軍用地になったために、ヤマトタケルを祀る走水神社の境内に移され、明治42年(1909)に走水神社に合祀されました。また、夫の国家的任務を遂行するために、身をささげるという献身的行為を称え、明治天皇の第6皇女常宮昌子内親王の染筆による、弟橘媛命の歌を刻んだ歌碑の除幕式が、東郷平八郎、乃木希典など七名士により建碑され、除幕式が明治43年(1910)6月5日に挙行されました。
美智子 上皇后陛下著書「橋をかける」
美智子上皇后陛下は、第26回IBBYニューデリー大会(1998年)の基調講演で、『橋をかける』という自らの本で子供時代の読書の思い出 を語られました。この中で、ヤマトタケルと弟橘媛の伝説に触れています。
「いけにえという酷い運命を進んで自らに受け入れながら、恐らくはこれまでの人生で最も愛と感謝に満たされた瞬間の思い出を歌っていることに感銘という以上に強い衝撃を受けました。」「愛と犠牲という二つのものが、私の中で最も近いものとして、むしろ一つのものとして感じられた、不思議な経験であったと思います。」「今思うと、それは愛というものが、時として過酷な形をとるものなのかも知れないという、やはり先に述べた愛と犠牲の不可分性への、恐れであり、畏怖(いふ)であったように思います。」と発表されています。
このような伝説の残る場所を皆様も訪れてみてはいかがでしょうか。
記事提供:NPO法人 よこすかシティガイド協会